院長の知恵袋

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インターネット時代の子どもとゲーム障害(ゲーム依存症)

 子供を取り巻く環境について、今回は子どもたちには身近なネット・ゲームの世界と、ゲーム依存症について私見を述べる。
 2020年春頃から新型コロナウイルス感染症によって外遊びが減り、学校の一時閉鎖によって自宅で過ごす子供たちが増えた中でゲームにはまってしまった子ども達が多くみられるようになった。勉強以外の時間をゲームに費やすことが多くなり朝から晩までゲーム画面とにらめっこしている子供の姿を目の当たりにしている親から相談が急増したのが2020年夏頃からであった。新型コロナウイルス感染症は10数波の感染を繰り返し、5類感染症に移行したが、子ども達の行動は変わらず、自宅で時間の許す限りゲーム三昧の生活を送る子どもが日常茶飯事になってしまった。これを更に悪化させたのが2024年夏の猛暑であった。猛暑で熱中症の危険性のために外出を見合わせることが必要になり、また学校のプール開放もなくなり、クーラーの効いた家の中で、ゲーム三昧の日々を過ごし、肥満の増加とともにゲーム依存症の子どもが急増した。小児科を標榜している当院には、食事の時間が遅くなったり、おざなりになったり、夜中起きてゲームをし、朝、起きられなかったり、体調不良を訴えたり、物にあたったり、兄弟や親に暴力を奮ったり、携帯スマホのフィルターを解除したり、過度の課金のために親の財布からお金やクレジットカードを盗んだりする子どもたちの相談が急増している。
ゲーム依存症は2013に米国精神医学会が発行した精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)の今後の研究のための病態の項目でインターネットゲーム障害(IGD)の診断基準が収載された。2018年にはWHOによって国際疾病分類第11改訂版(ICD-11)にゲーム障害の診断基準があらたに収載された。
DSM-5の提言が事実上IGDの国際的な診断マニュアルになっている。
① ゲームに関する行動(頻度、会誌・終了時間、内容など)がコントロールできない
② ゲーム優先の生活となり、それ以外の楽しみや日常行う責任のあることに使う時間が減る
③ ゲームにより個人、社会、教育、職業やその他の重要な機能分野において著しい問題を引き起こしているにもかかわらずゲームがやめられない
この3条件が12カ月以上続いている状態と定義されている。
IGDになると日常生活に様々な影響・問題が生じる。①生活が乱れ、朝起きられない ⓶昼夜逆転の生活になる ⓷十分な食事を摂れない ④使用を制限されると暴力的になる ⑤ゲームに高額な課金をしてしまう
IGDの有病率は人口の約3%(男性)、約1%(女性)で日本では少なくとも100万人以上いると推定されている。
IGDは薬物の依存と同じように報酬にかかわる神経回路(報酬海路)が繰り返される快感刺激により変化した行動嗜好でギャンブル依存症と同じ慢性の再発性疾患である。
ゲームを繰り返し行うことで得られる快感刺激はドーパミンが脳の報酬回路に放出されるとこで得られる。快感刺激は刷り込みがなされ強い変化を脳の報酬海路に与える。その悔過ゲームがしたくてたまらなくなるという渇望が生じ、ゲーム使用のコントロールができなくなる。IGDが長く重度になるとドーパミン受容体が減少する。その結果ゲームをいくらやっても快感が得られ難くなる。
ADHDの各症状はゲーム障害と関連するが、不注意は他の症状より強く相関がみられることが報告されている。ADHDの子どもたちを数多く(300人以上)診ている当院でゲーム依存の子どもたちが多いのも納得がいく。
 ゲーム依存の基本治療方針は①ゲーム使用を責めることなく、使用が少しでもコントロールできれば評価する ⓶ゲーム使用を全くなくしてしまう方針は現実的ではない ⓷ゲームの優先度を2番以下にすることが目標 ④但し、現実生活の困難な状況によりゲーム使用に逃避している際には、現実生活に立ち向かう力を取り戻せるまで寄り添う姿勢が重要である。
 残念ながらIGDを専門に扱う医療機関はいまだ数少ないのが実態である。
香川県では全国に先駆けて「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」を制定した。香川県教育委員会はそれに基づき2020年12月にネット・ゲーム依存予防対策学習シートを小学校「下学年版」、「上学年版」、「中学校版」の3種類を作成した。ネット・ゲームの長所や短所を整理した上で、使い方のルール作りについて家庭で話し合える展開にしている。
ネット・ゲーム依存症予防に当たっては家庭だけの問題ではなく、家庭や学校を含む社会全体で行っていく必要があり、依存状態に陥ることを未然に防ぐことが必要である。熊本県でもこのようなツールが入り口としては必要であり、社会全体で支えるためには匿名性を保持しながら情報の公開が必要と考える。